私が横浜市大病院での手術を希望した大きな理由は、短期入院で手術をしてくれることでした。
家を空けるとなると、子供たちのことで夫の協力も必要ですし、自分の仕事も調整しなくてはいけないので、数日の入院の後、すぐに普通の生活に戻れたことは本当に助かりました。また、皮膚を切って腫瘍を取り出すのではなく、口の中を切って取り出す方法での手術を受けた訳ですが、外観に変わりがないことは、手術後、傷を気にすることなく仕事に戻れて、気持ちの上でとても楽でした。もし、皮膚を切開する方法で受けたのであれば、2cm程度の傷ならさほどでもなかったと思いますが、5cmの大きさとなると…、おそらくは、鏡を見る度に傷が気になって仕方がなかったのではないかと思います。
この手術で困ったことと言えば、手術した側の舌の動きが悪いため、①舌足らずな話し方になるので、人と会話する時に気になること、②食事がしにくく時間がかかること、でした。ですが、回復している実感もあったので、焦らずにいられましたし、症状が気にならなくなった今はなおさらのこと、口内法で手術していただいて良かったと感謝しています。
手術してくださった岩井先生は、とにかくバイタリティがあって、決めることはスピーディ。テンポ良い指示で、それでいて患者本位というか、意思を尊重してくれます。親しみやすい愛嬌のあるお人柄で、初対面でもそれほど緊張せずにいられました。手術前日の説明では、「難しい手術ですが」と前置きしたうえで、「患者さんにとってアンハッピーなことは、僕にとってもアンハッピーなことなので、そうならないように頑張ります。後は信じて任せてください」と仰っていただいたことが印象に残っています。言葉に誠実さが感じられて嬉しかったですね。
"この先生で良かった"と安心して手術に臨むことが出来ました。
手術を受ける前後の様子を簡単にまとめてみました。個人差もあるとは思いますので、一つの目安として、何かしら参考になることがあれば幸いです。
顎の下にできたしこりが大きくなっていることが気になり、昨年耳鼻科を受診。そこでは唾液腺腫瘍との診断で、「悪いものではないですが、いずれ手術が必要でしょう」との説明でした。その後も気にはしていたのですが、子供のW受験で手術どころではなく、先送りにしていました。
今年の夏、歯科を受診した際に口腔外科での診察を強く勧められ、その場で紹介状を渡されました。自宅に戻り、手術や入院のことなどをインターネットで調べていたら、そのほとんどが「一週間の入院」とある中、横浜市大の岩井先生だけ「入院は2泊3日」「低侵襲手術」と記載があったので、迷わずメールでご相談しました。それに対して、土曜日で休診日であったにもかかわらず、その日のうちに丁寧なお返事をくださり、横浜市大での手術を決意するに至りました。
診察の結果から受けた説明は、
① 顎下腺腫瘍である
② 良性か悪性かはフィフティ・フィフティ
③ 悪性か良性かによって手術方法や治療内容が異なってくるため、PET、MRI、CT、エコーといった精密検査が診断のために必要 ⇒悪性の場合は入院期間が一週間位に延びる
④ 2cmの傷で顎下腺腫瘍を摘出した経験もあるが,今回は良性であっても腫瘍が大きいので2cmの傷で取り出すことは不可能で、5cm位なら何とか取り出せるのではないかというような内容でした。
「3日間入院」「手術の傷は2cm程」という訳にはいかないようで、先生が渡してくれた定規で5cmの実寸を確認してみたら、予想以上に傷が大きくなることに気が滅入りました。
ですが、それ以上にショックだったのは、二分の一の確率で癌の可能性があるということ。
特に、CTの画像を見ながら、「まだらになっているこの部分が悪いものかもしれない」と視覚で具体的に示されたことにはとても戸惑いました。PET検査を申し込んだことも、単に統計学的な話ではなく、本当に癌を疑われているっていうことなのかと、診察を終えた後になって、だんだん整理できたというか…。そうなると、"良性のフィフティ"よりも、"悪性のフィフティ"に気持ちが引っ張られてしまいます。結果が出るまでの半月間、いろんな不安と向き合うことになり、なかなか穏やかな気持ちではいられませんでした。
2回目の診察時には、すべての精密検査の結果が出揃うことになっていたので、診察室に入る時はドキドキです。検査の結果、悪いものは見つからなかったと告げられたときには本当にホッとしました。それでも、「良性7割、悪性3割」とのこと。正確には、手術で摘出した腫瘍を調べるしかないのだそうですが、「多分大丈夫だと思う」と仰ってくれたので、これ以上考えることはスッパリ!とやめました。
ということで、後は手術の方法をどうするかといった話になりました。
その日の朝に岩井先生はスイスから帰国したばかりで、丁度、口内から顎下腺腫瘍を摘出する手術についても勉強してこられたのだそうです。そして、「皮膚の傷が大きくなることを気にするのであれば、この方法でも良いのではないか」、特に「腫瘍も大きいので、顔面神経を傷つけるリスクを考えると、口の中から手術する方法が適していると思う」という理由で勧めてくださいました。
但し
・顔面神経は大丈夫だが、舌神経や舌下神経を傷つけてしまうことがある
・口の中を5,6cm位切ることになる
(口の中の傷は回復が早く、痛みも鎮痛剤でコントロールできる)
・口内からの手術はどうしても視界が悪くなるので、安全に手術を行うために、
舌下腺を摘出して見やすくする(舌下腺自体はなくなってもそれほど問題はない)
そうした問題点も挙げながら、私が理解しやすいように、時間をかけて説明してくれました。
通常、顎下腺腫瘍は皮膚を切開して摘出するので、口内からの手術は初めてなのだそうですが、「今まで行ってきた口の中から顎下腺ごと唾石を摘出する手術と殆ど変わりはないので大丈夫」とのこと。心の中で、"何てチャレンジャーな先生だろう"と思ったのですが、一方で、「リスクを負ってまで無理な手術はしない」とも仰っていたので、不安は感じませんでした。傷の大きさを心配する必要がないことは大きな魅力でしたし、顔面神経麻痺への不安が減るのであれば…と、この手術方法でお願いすることにしました。
後は、手術中に腫瘍の検査を行った結果で癌と判れば、少し広範囲に切除するので、皮膚からも、切開することになるということでした。そんな時まで傷にこだわるつもりはなかったので、その判断は先生にお任せすることにしました。
手術前夜は、(心の中で)岩井先生にお願いをして…、それから、神様にお祈りをして…、穏やかな気持ちで就寝しました。
麻酔から醒める頃の記憶は、途切れ途切れで曖昧なのですが、「無事終わりました」という岩井先生の声と言葉に、安心したことははっきりと覚えています。午後からの手術で、病室に戻ったのが夕方5時頃。3時間後には、安静が解けてベッドから降りて歩けるようになりました。
夜間、巡回に来てくれた当直の先生が、傷がきれいだと随分感心していて、やっぱり岩井先生は凄いんだなと思いました。翌朝、出血量や傷の様子を確認してからドレーンの抜去です。その後は点滴も抜け、歯磨きも飲食も自由になりました。早速、朝食を温め直してもらってトライしましたが、噛むことも飲み込むこともうまくできず、ビックリして挫折。お味噌汁だけは有難くいただきました。
少し慌ただしかったのですが、晴れて午前中に退院です。お隣のベッドの方に、「この病室から見える日の出の海は本当に素敵なのよ」と教えていただいたのに、拝めなかったのは残念です。その方も翌日に退院が決まったとのことで、明るくお別れできました。
痛みはさほどでもなく、手術当日の夜に少し痛んだので鎮痛剤をお願いしましたが、麻酔による頭痛の方が痛かったくらいです。翌々日頃には殆ど感じなくなっていました。
術後3~7日目には、顎の下辺り、口の中の傷、舌の腫れがピークを迎えます。舌の動きに少し制限が加わるだけでも不自由になるもので、この間は話すことも食べることも億劫に感じました。食事では、食べ物が手術した側に流れると、うまく飲み込めずにむせてしまうこともあり、自分なりに工夫を要しました。そうした症状も、徐々に落ち着き、術後3週目~1か月後にはあまり気にならなくなりました。職場や友人との会話で、「普通に話せるようになったね」と言って貰えるようになったのもこの頃です。
退院してから2週間後、最後の診察です。病理検査の結果は良性であったとの報告を受け、残っていた糸の抜糸を済ませておしまい。5年、10年後に再発する人もいるという嫌な話もありましたが、その時は、岩井先生を頼って、すぐに診ていただくことにします。きっとその頃の先生は、さらに研究や経験を重ねていらっしゃるでしょうし、最善の手術をしてくださるでしょう。安心してお任せです。
舌の動きが悪いことについては、舌を動かす筋肉に沿って切開して縫ってあり、そのまわりの筋肉が硬くなっているからだそうで、徐々に良くなると説明を受けました。
会計を済ませる間、"癌かも"と思い煩っていた初診後のことを想い出し、"無事に済んで良かった"としみじみ思いました。杞憂に終わったことですが、今となれば、それはそれで、普段、当たり前に感じていたことにも目を向ける良い時間であったと思います。
岩井先生をはじめ、病棟や手術室の看護師さんは温かく、麻酔科の先生方もとても親切に対応してくださいました。お世話になった医療スタッフの皆様に、心からの感謝の気持ちで、病院を後にしました。
心配されていた舌のしびれについては冷たさや熱さに過敏になったくらいで、私はほとんど気にならず、それも2か月経った頃には消失しました。
最後まで残ったのは、舌の付け根が引きつれる感じです。手術を受けてから、およそ3か月を迎える現在にあっては、突っ張ったような違和感は少し残っていて、舌の動きも元通りとまでは言えませんが、手術した側でも普通に食べられていますし、このままでも何も困ることはない程度です。おそらく、ゆっくり馴染んでいくのかなと思っています。
以上です。
最後に、他ではできない難しい手術にもかかわらず、快く引き受けてくださった岩井先生、本当に有難うございました。
改めて、心から深く感謝申し上げます。